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2025年09月21日

マウスピース矯正だけでは治せない歯並びpart1

マウスピース矯正って、見た目も自然で使いやすいし、「これなら私でもできそう」と思える治療法ですよね。前回の記事では、そんなマウスピース矯正が得意とする歯並びについてお話ししました。

ただ、ここでちょっと知っておいてほしいことがあります。
どんな歯並びでもマウスピースで治せるわけではないんです。無理に進めようとすると、思ったよりも時間がかかってしまったり、仕上がりに満足できなかったりすることもあるんですね。

でも、これは決して「マウスピース矯正がダメ」という話ではありません。むしろ、「自分に合った方法を正しく選ぶこと」が大切なんです。

今回は「マウスピース矯正だけでは難しい歯並び」について、できるだけわかりやすくお伝えします。自分やご家族の歯並びに当てはまるかどうか、ぜひ参考にしてみてください。

重度の叢生(歯が大きく重なっている)

和光市 歯医者 和光市デンタルオフィス マウスピース矯正で治せない歯並び
重度の叢生

歯がガタガタに重なって見えると、鏡に映る自分の笑顔をためらったり、歯磨きが億劫になったりして、日常生活の質にも影響しますよね。気持ちはよくわかりますし、だからこそ「どう治るのか」をきちんと知っておくことが大切です。

どんな状態を「重度の叢生」と呼ぶのか

叢生とは、歯が並ぶためのスペースが不足して、歯が前後や斜めにずれて重なっている状態を指します。見た目では前歯のねじれや重なり、八重歯の突出、交互に飛び出している歯などが典型的です。専門家の間での分類は若干異なりますが、「スペース不足がかなり大きく、単純に歯を少し動かすだけでは並ばない」ようなケースを重度と判断します。患者さん自身が感じる「フロスが通らない・食べ物が挟まる・歯磨きで出血しやすい」といった症状が強いときも多いです。

なぜマウスピース単独で治りにくいのか

マウスピース矯正は、軽度〜中等度の歯の移動には非常に有効ですが、重度の叢生では以下のような限界が出やすくなります。

  1. スペースの確保が難しい:歯を並べるための隙間を作るには、歯間をわずかに削る(IPR)、歯を抜く、あるいは顎を外側に広げる(拡大)などの手段が必要です。マウスピースだけで確実に十分なスペースを作れるとは限りません。
  2. 大きな回転やねじれのコントロールが難しい:重度のねじれ歯を大きく回転させるには強い力と微妙な力のかけ方が必要で、アライナー単体では思った通りに動かないことがあります
  3. 歯根の傾き・ねじりに限界がある:歯の根元をしっかりトルク(回転力)制御するのはブラケット+ワイヤーの得意分野で、顎骨内での根の位置を大きく変える必要があるとアライナーのみでは不十分になることがあります。
  4. 支えの問題:多数の歯を同時に大きく動かすと「どの歯を支えにするか」が重要ですが、固定式の装置の方が有利な場合が多いです。

これらの理由で、無理にアライナーだけで進めると「治療が長引く」「目標の並びにならない」「途中でワイヤーに切り替える必要が出る」といった事態になりやすいのです。

具体的にどんな選択肢があるか

重度叢生では、個々の症状・年齢・顔貌(横顔のライン)・歯周状態などを総合して治療方針が決まります。代表的な選択肢は次の通りです。

  1. 抜歯を含む矯正
    歯を抜いてスペースを確保し、全体のバランスを整える方法。口元の突出が強い場合やスペース不足が大きい場合に有効です。抜歯の判断は「顔貌(唇の突出や横顔)」「噛み合わせ」「歯の状態」を総合して行います。
  2. 顎の拡大(拡大装置)
    成長期であれば顎の骨を拡げてスペースを作る方法が有効。成人では限界があり、外科的拡大や歯科矯正用アンカースクリューとの併用が検討されます。
  3. IPR(歯の側面をわずかに削る)
    歯と歯の間に少しずつスペースを創出する方法。重度の場合は量的に足りないこともありますが、抜歯を避けるための一手段として有用です。
  4. ワイヤー矯正(マルチブラケット)
    抜歯を伴う大きな歯の移動などが必要な場合、ワイヤー矯正が選ばれることが多いです。適切な力の伝達と微調整が得意です。
  5. ハイブリッド治療(アライナー+固定装置/アンカー)
    アライナーで見た目に配慮しつつ、必要な力はブラケットやアンカーで補う方法。患者さんの負担や見た目の希望と治療効果を両立させやすいアプローチです。
  6. 外科矯正
    骨格的問題が複合している場合(顎の位置が大きくずれている等)は外科手術を伴う矯正が必要になることがあります(成人に多い)。

重度の反対咬合(骨格性の受け口)

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重度の反対咬合

反対咬合、いわゆる「受け口」と聞くと、下の前歯が上の前歯より前に出てしまっている状態を思い浮かべる方が多いと思います。鏡で自分の横顔を見たときに、下あごが前に突き出しているように感じたり、食事のときにうまく噛み切れなかったり、発音がしにくいと感じることもあります。軽度であれば歯の位置の調整だけで改善できる場合もありますが、「重度の反対咬合」となると、話はかなり変わってきます。

反対咬合にも種類がある

反対咬合には大きく分けて 歯性のもの(歯の位置が原因)と 骨格性のもの(顎の骨の成長バランスが原因)があります。軽度の歯性の反対咬合であれば、マウスピース矯正で前歯を内側・外側に少し動かすだけで改善できるケースもあります。
しかし、重度の反対咬合は多くが骨格性で、これは「下あごが成長しすぎている」「上あごの成長が不足している」など、顎そのものの大きさや位置のバランスが原因です。この場合、歯だけを動かしても根本的な解決にならず、噛み合わせも見た目も十分には改善できません。

なぜマウスピース矯正だけでは難しいのか

マウスピース矯正は「歯の位置を動かす」ことに特化した治療です。しかし、重度の骨格性反対咬合では以下の問題が出てきます。

  1. 骨の位置のずれは歯だけで補えない
    下あごそのものが前に出ている状態を、上の歯や下の歯を少し傾けるだけで隠そうとすると、歯に大きな負担がかかります。その結果、見た目の改善はわずかでも、噛み合わせが不安定になったり、歯や歯茎へのダメージが大きくなるリスクがあります。
  2. 噛み合わせのズレが全体に及ぶ
    前歯だけでなく、奥歯もすべて反対の噛み合わせになっているケースが多く、これをマウスピース単独で治そうとすると「無理に歯を倒す」動きになり、理想的な噛み合わせには届きません。
  3. 長期的な安定性がない
    無理に歯だけを動かして見た目を整えても、根本的な顎の骨格の問題は残ります。結果として後戻りが起きやすく、治療のやり直しが必要になる可能性もあります。

実際の治療の選択肢

重度の反対咬合では、年齢や成長の段階によって治療方針が変わります。

  1. 子どもの場合(成長期)
    顎の成長をコントロールできる時期であれば、上あごの成長を促したり、下あごの成長を抑える装置(フェイスマスクなど)を使うことがあります。この時期にしっかり対応できると、大人になってから外科手術を回避できることもあります。
  2. 成人の場合
    成長が終わっているため、顎の骨格そのものを動かす必要があることが多いです。つまり 外科的矯正治療(顎の手術+矯正治療) が適応になるケースが少なくありません。手術と聞くと不安に思う方も多いですが、骨格を正しく整えることで「噛めるようになる」「顔貌のバランスが整う」「歯や顎関節への負担を減らせる」など、大きなメリットがあります。
  3. ハイブリッド治療
    中等度のケースでは、マウスピース矯正に一部ブラケットや矯正用アンカースクリューを組み合わせることで、審美性と治療効果を両立させる方法もあります。

重度の開咬(かいこう)

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重度の開咬

開咬とは?

開咬とは、奥歯で噛んでも前歯がしっかり噛み合わず、上下の歯の間に隙間ができてしまう状態を指します。前歯で食べ物を噛み切ることが難しく、発音に影響が出ることもあります。また、見た目にも影響するため、人前で口を開けて笑うことに抵抗を感じる方も少なくありません。単に「歯並びの問題」と軽く考えがちですが、実は噛む・話す・呼吸するといった日常生活の基本的な動作にも関わる、とても大切な咬合の問題です。

マウスピース矯正が難しい理由

軽度の開咬であれば、マウスピース矯正でも改善できるケースがあります。しかし、重度の開咬では事情が少し変わります。まず、舌の癖(前に舌を押し出す癖)や口呼吸といった生活習慣が関係していることが多く、単に歯を動かすだけでは元に戻ってしまうリスクがあります。また、骨格的な要素も大きく関わるため、マウスピースで動かせる範囲には限界があります。歯の傾きや噛み合わせの角度、顎の成長バランスなど複雑な要素が絡むため、思い通りに前歯を噛ませることが難しくなります。
だからといって開咬をそのままにしておくと、前歯で食べ物を噛み切れない、発音が不明瞭になるなど、日常生活に影響が出やすくなります。さらに、奥歯ばかりに噛む力がかかるため、奥歯の寿命が縮まったり、顎関節に負担がかかることで顎関節症を引き起こすリスクもあります。見た目の問題だけでなく、健康面にも長期的な影響が出る可能性があるのです。

治療の選択肢

重度の開咬では、ワイヤー矯正を取り入れることで歯をより細かくコントロールできます。ワイヤー矯正は歯を動かす力をより自由に調整できるため、マウスピースだけでは難しい前歯の噛み合わせの改善にも対応可能です。さらに、骨格的な影響が大きい場合は、外科的矯正を併用することで、骨格から噛み合わせを整えることができます。また、舌の癖や口呼吸といった習慣が原因の場合は、矯正と並行して舌のトレーニングや呼吸習慣の改善を行うことが重要です。これにより、治療後も安定した結果を得やすくなります。

本日はここまで。次回はpart2です。お楽しみに!